医療法人財団健和会 臨床疫学研究所
■ トップページ
■ 疫学研究所とは
■ 対人援助の
ワークショップ
■ 活動報告
■ ご案内
■ 保健医療福祉の
キーワード研究会
■ 医療情報のシステム開発
■ その他の主な研究テーマ
■ 出版・広報活動

埼玉県三郷市鷹野4-510-1
TEL:048-955-9963
FAX:048-955-9955
E-mail:ekigaku-ken@kenwa.or.jp


トップページ>保健医療福祉のキーワード研究会

保健医療福祉のキーワード研究会

くせものキーワード一覧はこちら

 いまや医療・保健・福祉あるいはさらにひろく対人援助の各領域にまたがって、連携したサービスの必要性が高まっています。
  そこでは、サービスの利用・提供にかかわる人々のコミュニケーションに、重大な障害があると、われわれは考えます。

 各領域の専門職間のコミュニケーションの障害が一つの問題です。それぞれの専門領域が程度の差はあれ輸入された学問・技術体系を背景にもち、輸入された時代背景、輸入元に違いがあること。さらに各領域が専門家を発生させた時代、国、その後の歴史に違いがあること。そのほかさまざまな原因によって、各領域がばらばらの用語の体系をもつに至り、その傾向を強めつつあることが、指摘できます。

 もう一つの問題は、援助の受け手(患者・依頼者、家族、ほか)と提供者間のコミュニケーションの障害です。利用者の権利の拡大、とくに自己決定権の増大は、この障害を克服することを強く要請しています。援助と依存の相互関係が注目されたり、価値の多文化性を承認する傾向が強まっていることも、対人援助の基礎にあるコミュニケーションの問題の重要性を際だたせています。
 対人援助にかかわる専門家の努力の方向は、必ずしもこの状況に対応していないように思われます。そのことの一つのあらわれは、専門分化を指向する流れです。医療・福祉の領域に顕著にみられるような、職種の増加、既存職種内での分化がこれにあたります。また、独立した用語体系を追究する動きも、専門分野の確立にとって必要であるとしても、領域間のコミュニケーションのあらたな敷居となる面は否定できません。

 われわれは、医療・保健・福祉、さらには対人援助の各領域の間の、コミュニケーションの裂け目を埋める作業が、専門分化の作業以上に重要だと考えます。
 研究会のタイトルとした「医療・保健・福祉のキーワード」とは、多領域にまたがって使用される言葉のうちで、現場で使われている重要な概念、方法を示すことばをさします。これらの「キーワード」を学際的に検討することで、各領域間の認識・方法の違いを明確にする可能性を手にすることができるでしょう。その作業を基盤にして、対人援助の各分野が手を繋ぎ合うための水路が開かれると信じるものです。

 より根底的な問題意識として、「対人援助の共通基盤」論という考え方があります。医療・保健・福祉のほか、教育、保育、市民運動、地域「開発」などの、ひとまたは人の集団を対象とする援助行為・運動には、共通の基盤が求められます。それぞれの領域は、おおきくは欧米社会のなかで形成されてきました。これらは相対的に独立して発展してきた面をもっています。そのために、それぞれの領域のバック・ボーンに、独立した学問体系と技術・技術システムの体系が存在します。学問レベルでの対話は、これまでにもおこなわれてきましたが、その歴史は浅く、表面的なものにとどまっていた感があります。例としては、精神医学、臨床心理学、教育心理学の相互関係、あるいは、都市計画学、社会教育学、公衆衛生学の関係などを挙げることができるでしょう。これらは、従来は実践の場面が分かれていることによって、対話が規制されている面がありました。

 今日、各領域が連携して援助を構成するべきケースが増加しています。一つの家庭の中に、高齢者の介護問題、虐待や不登校をふくむ教育・保育上の問題、アルコールなどの嗜癖問題などが組合わさっているケースは、珍しくありません。こうした多重問題ケースは、実践の側から領域間の学問的対話を要請するものです。時代は、「共通基盤」を確立する、新しい創造的な事業の展開を待っているとみることもできます。
 この共通基盤を確立する作業には、実践的な側面と、学問的な側面があります。

 今日の状況の下では、実践的な作業を大きなエネルギーで緊急におこなう必要性があります。学問的な検討・考察にも、膨大な作業が必要不可欠となります。科学論的な課題の例としては、科学技術史的研究において、各分野の学問が、いつごろから、どのように形成されてきたのかを比較する作業があります。技術者教育について、各領域の専門職養成課程の比較もあります。より基礎的には、各用語のオリジナルをたどり、記載する作業があります。
 われわれは、実践の場を共有できる小規模な学際的研究会で共通基盤論のモデルをつくろうと思います。同時に、開かれたネットワークを組織して、アカデミーを含む研究者・実践家に情報を発信し、モデルを自治体レベルへ拡大し、国際的な情報発信にも取り組んでゆきたいと考えています。
 この第一歩としてとりあげたのが、医療・保健・福祉のキーワードの選定・記載作業にほかなりません。「キーワード」を検討するにあたって、我々が採ろうとした方法は、次のようなものです。
 まず、誰が作業するのか。実践的という意味で現場で働いている者が中心となり、学問的方法をもつ研究者を加えることにしました。

 作業の方法としては、集団的検討を重視することにしました。各領域から参加したメンバーによる少人数の研究会を中心とします。そのまわりに、より開かれた参加者とゲストで構成される研究集会をおくことにしました。研究集会のゲストは各領域で業績のある方々に出席していただき、忌憚のないご批判をあおぐこととしました。
 用語の選定にあたっては、地域ケアの現場で用いられることばを中心にすることにしました。具体的には、利用者・その家族への説明で用いられる言葉、カンファレンスで用いられる言葉を優先しにし、行政や施設の管理・運営で用いられる用語は必要最小限にとどめることとしました。そのなかで、日常語・各専門領域語にまたがっている言葉をキーワードとしてとりあげます。これらには、それぞれの立場による利害のちがいが反映されていると考えられます。

 記載にあたっては、記載モデルの探求に力をそそぐことにしました。立場による利害のちがいをみとめ、それぞれからみた用語の意味するところをそのまま記載する。それによって、その言葉をある意味の広がりをもつものとして表現する(「多義的記載方法」)をとることにしました。用語の歴史をたどったり、執筆者の立場を明らかにした上で批判的に記載する方法も、採り入れようと考えています。

 表現形態としては、当面は絞り込んだキーワードに関する論文集のかたちをとることになります。最終的には、用語集から事典または辞典をつくるところまで、運動を進めていきたいと希望しています。

(文責 藤井博之)

戻る
ページトップへ
Copyright (c) 2006 臨床疫学研究所 All rights reserved. 医療法人財団健和会